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青森地方裁判所 昭和31年(行)5号 判決 1957年12月19日

原告 相馬農業協同組合

被告 青森県知事

主文

被告知事が昭和三一年二月一五日付を以てなした原告の異議申立に対する決定中、該異議申立を棄却した部分及び昭和二八年三月三〇日原告所有の別紙目録記載の物件につきなした滞納による差押処分は何れもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、被告知事は昭和二八年三月三〇日原告において昭和二三年度、同二四年度のりんご引取税及び昭和二六年度、同二七年度の自動車税の滞納ありとし、その滞納処分として原告所有の別紙目録記載の物件に対し差押をなした。

二、原告はこれに対し、昭和二八年一〇月一四日異議の申立をなしたところ、被告は昭和三一年三月一五日、前記滞納処分の中昭和二三年度りんご引取税に関する部分につき原告の異議申立を認容しその余を棄却する旨の決定をなし、該決定書は同月二二日原告に送達せられた。

三、然しながら、右差押処分並びに右異議に対する決定中異議申立を棄却した部分は以下の理由によつて違法である。

(一)  前記昭和二六年度同二七年度の自動車税について、原告は既に昭和二八年四月二日その滞納税額全部を被告に納付している。

(二)  被告は原告において昭和二四年度のりんご税の滞納ありというが、原告は同年度において被告主張の如きりんごの検査申請をなした事実はなく、従つて原告が同年度におけるりんご引取税の債務を負担すべき謂われはない。従つて原告としては何ら被告主張の如き県税滞納の事実がないから、前記異議申立に対する決定の一部及び滞納処分としての差押は違法であり、取消さるべきである。

よつて本訴請求に及んだと述べ、被告の主張事実を否認し、仮に原告が被告主張の頃りんごの検査申請をなし、よつて被告主張の如き引取税債務を負担したとしても、原告は右申請に対して検査確認証明書(第一三六七号乃至一三六九号)が交付された昭和二四年二月一八日以前に右税額全部を納付済である。と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実中一、二及び三の(一)を認め、その余を否認する。被告が原告主張の異議申立に対し、その主張のとおり昭和二三年度りんご税に係る部分を認容したのは「相馬村農業協同組合」に賦課さるべきところを誤つて原告に賦課したことが判明したからである。ところで本件差押処分は原告主張の如き自動車税の滞納による他、原告が昭和二四年二月一八日青森県りんご検査所弘前出張所においてりんご(国光種)合計一、五〇〇箱(一箱四貫八百匁入)の検査方申請をなしたことに基くりんご引取税金三万円(一箱につき金二〇円)を合算した滞納全額についてなされたものであるから、その後右自動車税を納付しても右滞納全額を完納しない以上本件差押は解除さるべき限りでない。と述べた。(立証省略)

理由

一、被告が原告に対する昭和二三年度、同二四年度のりんご引取税及び同二六年度、同二七年度の自動車税の滞納処分として昭和二八年三月三〇日原告所有の別紙目録記載の物件に対し差押をしたことこれに対し原告が同年一〇月一四日被告に異議の申立をなしたところ、被告は昭和三一年二月一五日原告の異議申立中、昭和二三年度りんご税に係る部分を認容し、その余を棄却する旨の決定をなし、該決定書は同月二二日原告に送達せられたこと、その間、昭和二八年四月二日原告は右昭和二六年度同二七年度の各自動車税(延滞金手数料等を含め)全額を被告に納付したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、被告は原告においてなお前記昭和二四年二月一八日申請に係るりんご一、五〇〇箱の引取税の滞納がある旨主張し、原告はこれを争うのでこの点につき検討する。

(一)  抑々昭和二四年二月当時におけるりんご引取税の賦課徴収の方法は、青森県りんご検査条例に基いて検査を受けるりんごを課税標準とし、りんご引取者に対し検査と同時に所定の税額を賦課することとし、(青森県々税賦課徴収条例第五六条第一項)、納税義務者は税額に相当する県税証紙を県税証紙納付書に貼付して納税すべく、(同上条例第八七条の三本文)又りんご検査出張所長は右納税がなされたとき前記りんご検査条例に基く検査確認証明書に納付済の証印を押捺して納税者に交付しなければならない、(青森県税証紙取扱規則第四条)とされていたことは当裁判所に顕著なところである。

(二)  しかして、成立に争いない乙第五、六号証、同第一〇号証に証人小田川助一の証言を綜合すると、原告に対し昭和二四年二月一八日付で青森県りんご検査所弘前出張所長小田川助一名義のりんご国光種合計一、五〇〇箱のりんご検査確認証明書(第一三六七号乃至第一三六九号)が発行交付されている事実が認められる。証人成田武任の証言中には、被告の弘前出張所は原告組合の所轄外であるので原告は同出張所で検査を受けたことがなく、原告組合の所在地に在る相馬村出張所を利用し同所で検査を受けて来た旨の供述があるけれども、元来りんご検査出張所の事務管轄の定めは一応の基準を示したもので、所轄地外からの申請をも受理していたことは前記小田川証人の証言に徴して明らかであるから、右成田武任の証言のみを以てしては右の認定を動かし難く、他には右認定を左右するに足る証拠がない。しからば他に反証の見るべきもののない本件では、原告は被告主張のとおり、りんご一、五〇〇箱の検査申請をなし、同時に、前記条例に基きその引取税債務を負担したものというべきである。原告のこの点に関する主張は理由がない。

(三)  進んで原告の予備的主張につき按ずるに、前記乙第五、六号証に依れば前段認定の青森県りんご検査所弘前出張所長が昭和二四年二月一八日付原告に宛て発行、交付した検査確認証明書第一三六七号及び第一三六九号(乙第五、六号証)には何れも納税済の証印が押捺されていること、(従つて第一三六八号検査確認証明書にも同様の証印が押捺されたことが推認される。)が明かであつて、この事実と前記証人小田川助一の証言及び成立に争いのない甲第三、四号証に前記条例規則による取扱手続とを綜合すると、原告は右りんご一、五〇〇箱の引取税を既に被告に納付していることを推認することができる。

もつとも、公文書であるので真正に成立したものと認められる乙第一四号証に、証人小田川助一、同野呂四朗の各証言を綜合すると、職員の事務不慣れとか、出荷貨車の獲得の必要から、現実には納税の事実がないのに拘らず検査確認証明書を発行したり、納税済の証印を押捺した形式上の書類を作成交付した事例もないではなかつたことを認めるに難くはないが、本件確認証明書押捺の証印が右のような場合に該当するものであることを認めさせるに足る証拠はなく、又、成立に争のない乙第八、九号証に証人溝江秀夫の証言及び同証言によりその成立を認め得る乙第七号証を綜合すると、本件原告組合に対する課税は前記確認証明書が発行交付されてから漸く一年後の昭和二五年二月中に行われたものであり、しかも昭和二四年九月二〇日付中地税第四二五号を以てなした訴外山内石太郎に対する課税通知の一部税額に過誤ありとして減額の上、これを原告に対する追徴税額とし、過年度徴税に及んだことが明らかであつて、かかる徴税決定までの経過に徴し、右の過誤訂正が正当である所以を首肯せしめるに足る何等の証拠のない本件では、被告の右原告に対する課税事実の存在のみを以てしては未だ前記推認を覆すことができない。

三、果してそうだとすると、原告は現在被告主張の如きりんご税を滞納していないといわざるを得ないから、それが存在することを前提とする本件差押処分及び被告の前記決定中原告の異議申立を棄却した部分は違法として取消さるべきである。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木次雄 宮本聖司 右川亮平)

(別紙省略)

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